※画像は昭和12年発行の小野進著「忠魂賦 忠犬ハチ公頌賦」(管理人蔵書)収録の小野さんご自身が撮影したハチ公の姿です。
今日はハチ公の命日です。七十五回忌……、時空を超えてハチ公に思い馳せています。ハチ公は、どんな思いで、渋谷駅を出ていったのだろう?なにを考えながら、ひとりひっそりと、普段行きもしない場所へ向ったのだろう……。
その思いを、史料と照らしあわせながら、自分なりに考えてお話もどきを作ったのが、去年のことでした。
あのときは、たくさんの方からメッセージをいただいて、本当に励まされました!今まで、こっそりと運営していたサイトでしたから。とても嬉しかったものです!
最近、ずっとサイトを更新できずにいました。申し訳ない次第です。
これからも、ハチ公のことを伝えていきたいと思います!
久しぶりに、ハチ公に関するエピソードをひとつ。
ハリウッドの映画効果もあって、日本ばかりでなく、世界にもハチ公ファン急増中のようですね!
ところで、ハチ公の時代にも、おそらく「ハチ公ファン」にかけては右に出る者はないであろうという、とても情熱的にハチ公を愛した人がいました。
当サイトでも度々ご紹介している、小野進さんです。
小野進さんは、「ハチ公唱歌」の作詞者として、近年名前が知られるようになりましたが、この方は秋田県で教職の立場にあり、天然記念物調査委員も務めていました。ハチ公が有名になった当時は、大館の中学校で、博物を教えていました。自然を愛し、郷土を愛し、そしてハチ公を深く愛していたのが、その著作から窺い知ることができます。
あまり知られていませんが、秋田犬が天然記念物として認定されるために、とてもご尽力なされた方なのであります。小野さんは、地元の愛犬家たちに秋田犬の保存を呼びかけ、ご自身は著作やラジオを通して、いかに秋田犬が素晴らしいかを広めていったのです。更に、天然記念物調査委員の立場からも、認定に向けて働きかけました。
その努力が実って、昭和6年に秋田犬は日本犬初の、天然記念物認定を受けることになりました。
ハチ公が世に知られる前、小野さんは秋田犬の素晴らしさを伝えるラジオ放送で、次のようにお話しています。
「(略)新田義貞の部将、畑時能の愛犬「犬獅子」が、山陽の外史に、不朽の名をうたわれたように「秋田犬」の名を、永久に世に伝えることを。これ又あこがれの一つ。しかし、私のユートピア、それは必ずしも、夢の夢でないことを信じたいものであります。」(原文旧かな 「秋田犬・奥羽北海の動物を語る」小野進 著より)
そして、その後ハチ公が現れるに及んで、小野進さんは著書に「予言的中のよろこび」と記しており、その興奮が活字を通し、時間を越えて伝わってきます。小野さんにとって、ハチ公こそが「心のユートピア」であったのです。
ハチ公に詩を捧げ、歌に詠んだ人は数多くいますが、ハチ公のかなしみを唄うだけでなく、詩の世界で上野先生と再会させてやったのは、小野進さんだけかもしれません。
小野さんは、「黄泉の主従立体像」という詩のなかで、冥界のハチ公が鬼の力を借りて人間となり、上野先生と再会を果たすという、とてもドラマティックな物語を描いています。
この詩をはじめて読んだとき、自分は思わず涙ぐんでしまったものです。
ただ再会させるのでなく、ハチ公を人の姿にして逢わせてやるのが、心にくいですね。
ハチ公はきっと、上野先生のペットではなく、家族――父と子であったのでしょう。
なにも言わなかったハチ公が口をきけたら、どんなことをしゃべったでしょう。なにを伝えたろうな、と思うのです。あれこれ思い馳せるだけで、なんともいえない気持ちになってしまいます。
ハチ公を愛した小野進さんは、その後も盛んに活動し、自然の保護や、動植物を愛する心を訴え続けました。しかし、その晩年はとても不遇であったと伝えられています。愛する妻子全てに先立たれ、ご自身もひっそりと世を去られたそうであります。
ハチ公のことを後世に伝えていくことは、こうして、ハチ公と関わった多くの人々、世に知られていない人々の功績を伝えることでもあるのです。
自分は、ハチ公はもちろんのこと、歴史に埋もれてしまった、「ハチ公の輪」を、もっと多くの人に知ってもらいたいと、強く思うのです。
ハチ公に感動し、ハチ公から結ばれていった「人の輪」を思うとき、ハチ公は我々に、実に色々なことを教えてくれるものだと実感します。
ハチ公を通して見えてくるもの――それを今後も伝え続けられる場所でありたいと思うのです。「忠犬ハチ公博物館」が。
2009/9/9 「 ハチ公と道徳教育――戦前発行の「忠犬ハチ公物語」から 」
2009/8/9 「 ハチ公を読み解く――「美談」 」
2009/3/9 「 びっくりした館長 」
2009/3/8 「 ハチ公命日、そしてサイト一周年 」
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